09. 歓びと哀しみの葡萄酒


『其れは...歓びに揺らぐ《焔》...哀しみに煌めく《宝石》...
多くの人生...多くの食卓に...彼女の『葡萄酒(ヴァン)』があった――
横暴な運命に挑み続けた女性『Loraine de Saint‐Laurent』(ロレーヌ・ド・サン・ローラン)
大地と共に生きた彼女の半生...其の知られざる《物語(ロマン)》』NA:飛田展男

嗚呼...彼女は今日も畑に立つ 長いようで短い《焔(ひかり)》
得たモノも喪(うしな)ったモノも 多くが通り過ぎた...
嗚呼...季節(セゾン)が幾度(いくど)廻(めぐ)っても 変わらぬ物が其処に在る
優しい祖父(グランパ)の使用人(アンプロワイエ) 愛した彼との『葡萄畑(クリマ)』

嗚呼...追想はときに ほの甘く
熟した果実を もぎ穫るような悦び(プレイズィー)...

嗚呼...葡萄樹(ヴィーニュ)の繊細な(デリカ)剪定(せんてい)は 低温で少湿が理想
造り手達(ヴィニュロン)の気の早い春は 守護聖人の祭(サン・ヴァンサン)の後に始まる...
嗚呼...無理な收量(カンティテ)を望めば 自ずと品質(カリテ)が低下する
一粒...一粒に(アン グラン...エ アン グラン)...充分な愛情(アムール)を それが親の役割……

嗚呼...追想はときに ほろ苦く
傷んだ果実を もぎ穫るような痛み(ペイヌ)...
嗚呼...女は政治の道具じゃないわ...
愛する人と結ばれてこその人生(ラ ヴィ)
されど...それさえ侭成(ままなら)ぬのが貴族(ノーブル)
そんな『世界(もの)』捨てよう……
ah...ah...ah...ah...


「残念だったねぇ…」

『権威主義を纏った父親(ペール)...浪費する為に嫁いで来た継母(メール)
名門と謂(い)えど...派手に傾けば没落するのは早く...
斜陽の影を振り払う...伯爵家(レ コーント)...最後の《切り札(カルト)》...娘の婚礼...
嗚呼...虚飾の婚礼とも知らず――
継母(おんな)の《宝石》が赤(ルージュ)の微笑(えみ)を浮かべた……』NA:飛田展男

「おほほほほほ――…」

『地平線 が語らざる詩(うた)...大切なモノを取り戻す為の...逃走と闘争の日々(ひび)...
その後の彼女の人生は...形振(なりふ)り構わぬものであった……』NA:飛田展男

私はもう誰も生涯愛さないでしよう 恐らく愛する資格もない...
それでも誰かの渇き(ソワフ)を潤せるなら この身など進んで捧げましょう...

樫(シェンヌ)の樽の中で 眠ってる可愛い 私の子供達(モ ナンファン)
ねぇ...どんな夢を見ているのかしら?

果実(ピノ)の甘み(ドゥスール)
果皮(タンニン)の渋み(アストラジャン)
愛した人が遺した大地の恵み(テロワール)
『歓び(ジョワ)』と『哀しみ(シャングラン)』が織り成す調和(アルモニ) その味わいが
 私の『葡萄酒』(モン ヴァン)
――そして...それこそが《人生》 (エ セ ラ ヴィ)

「其処にロマンは在るのかしら?」CV:能登麻美子





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