08. Sacrifice


「彼女こそ私のエリスなのだろうか…」

Sacrifice, Sacrifice, ah...Sacrifice, Sacrifice, ah...

無邪気な笑顔が 愛らしい妹は
神に愛されたから 生まれつき幸福(しあわせ)だった

一人では何も 出来ない可愛い天使
誰からも愛される 彼女が妬(ねた)ましかった

器量の悪い私を 憐れみないでよ…
「─惨めな思いにさせる 妹(あの子)なんて死んじゃえば良いのに…」


Sacrifice, Sacrifice, ah...Sacrifice, Sacrifice, ah...

あくる日妹は 高熱を出して寝込んだ
ごめんなさい神様 あの願いは嘘なんです

懺悔が届いたのか やがて熱は下がった
けれど今度は母が 病(やまい)の淵(ふち)に倒れた

母が今際(いまわ)の時に遺した言葉は…
「─妹(あの子)は他人(ひと)とは違うから お姉ちゃん(あなた)が助けてあげてね…」


Sacrifice, Sacrifice, ah...Sacrifice, Sacrifice, ah...

母が亡くなって 暮らしにも変化が訪れ
生きる為に私は 朝な夕な働いた

村の男達は 優しくしてくれたけど
村の女達は 次第に冷たくなっていった

貧しい暮らしだったけど 温もりがあった…
「─肩を寄せ合い生きてた それなりに幸福(しあわせ)だった…」

それなのにどうして…こんな残酷な仕打ちを…教えて神様!
妹(あの子)が授かった子は 主が遣(つか)わし給(たも)うた 神の御子(みこ)ではないのでしょうか?


『─妹が子供を身篭(みご)もっていることが発覚した夜
村の男達は互いに顔を見合わせ口を噤(つぐ)んだ
重い静寂を引き裂いたのは耳を疑うような派手な打音
仕立屋の若女将が妹の頬を張り飛ばした音…』

「泥棒猫…可哀想な子だと…世話を焼いて…恩知らず…」

『─断片的な記憶…断罪的な罵声… 』
「嗚呼…この女(ひと)は何を喚いているんだろう? 気持ち悪い」
「ぐらりと世界が揺れ 私は弾け飛ぶように若女将に掴みかかっていた…」
『緋く染まった視界 苦い土と錆びの味 頭上を飛び交う口論 神父様の怒声』

「純潔の…悪魔の契り…災いの種…マリア様の…誰もガブリエルを…火炙りだ 」
「嗚呼…悪魔とはお前達のことだ!」

「─そして…妹は最後に「ありがとう」と言った… 」

心無い言葉 心無い仕打ちが どれ程あの娘を傷付けただろう
それでも全てを…優しい娘(こ)だから…全てを赦(ゆる)すのでしょうね…


「でも、私は絶対赦さないからね…」

「この世は所詮、楽園の代用品でしかないのなら、罪深きモノは全て、等しく灰に帰るが良い!」

『─裸足の娘 凍りつくような微笑(ほほえみ)を浮かべ
揺らめく焔 その闇の向こうに『仮面の男』を見ていた─』





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